ワクワクする田舎のヒロインたち(のらやま通信 NO.88 2002年4月号)

ワクワクする田舎のヒロインたち

 3月15日、早稲田大学に集まった約300人の農家のお母さんたち。その中には武部農水相雪印乳業社長の姿もありました。『田舎のヒロインわくわくネットワーク全国集会』にわが家の母が参加してきました。前回99年に引き続いての参加です。北海道から九州まで全国から集まる女性たち。1泊2日という時間、2万6千円という参加費のほか、交通費も使ってでも早稲田にやってくるのは、文字どおりわくわくする出合いがあるからです。

 このネットワークを呼び掛けた山崎洋子さんは福井県で牛を肥育している畜産農家。大学卒業後、結婚を機に夫婦で新規就農し、女性農業者の立場から社会的発言をしてきた農家の母ちゃんたちのカリスマです。全国集会では農業の現場にいる女性たち自身が様々な食の問題を学びあい、また自らの農業への夢を語り合う場を提供してきました。

 

 前回はわが家で食品加工所を開設しようとしていた時でしたので、もっぱら食品加工施設とか営業許可の取得が関心事でした。秋田で餅加工しているAさんや長野でブルーベリージャムを作っているKさん、神奈川で果樹栽培とその加工をしているIさんなどから加工のノウハウを教えてもらいました。特に神奈川のIさん宅には直接うかがっていろいろと教えていただきました。

 

 今回は長男が高3になることもあって、子どもの進路問題が主な関心事になりました。山梨のCさんの長男は三重県の私立農業高に在学中。環境保全型の循環農業を提唱するそこの理念に親子して賛同したためといいます。広島のKさんは軟弱野菜の専業農家で、夫婦共に東京農大出身。二人で農業をはじめたそうです。それを見て育った息子さんも東京農大へ進み、同級生のお嫁さんをつれて帰ってきたとか。福岡市の市街地で直売をしているSさんの長男は九州大農学部に通っていて、就農予定だそうです。

 わが家の場合、親以上に本人自身が思い悩んでいるのでしょうが、長男の進路は二転三転…。長男と3、4歳しか違わない若者たちが日本の農業の将来について熱く語っているのを横目でみては、青臭いのがいいなあ、一生懸命なのがうらやましいなあと思っていました。

 

 今回の全国集会の中心課題はやはりBSE(狂牛病)問題でした。同じ農家でも畜産はまったくの素人。一消費者としての知識しかありませんでした。畜産農家といっても牛に種付けをして子牛まで育てる農家、子牛を成牛に育てて肉牛として出荷する農家、乳牛を育てて牛乳を絞る農家など、農家が分業化していて、山崎洋子宅のように種付けから肉牛出荷まで一貫経営している農家は少数派であること。肉用和牛の場合、良い肉とされる血統にある牛の精子は大変高価で数千円から万円単位であること。

 BSE発見前はkg当たり一万円していた肉がその後は一千円になってしまったこと。値段がつけばまだ良い方で、せりに出しても値段がつかず自宅待機となって、毎日エサ代だけがかさんでいくこと。などといったはじめて聞くような話ばかりでした。日々の牛の世話の大変さ、行政への不満不信を語るモーモー母ちゃん達の言葉には、現場の切実さとともにその大変さをもはねのけてしまうたくましさも垣間見ました。

 BSEは肉骨粉を草食動物の牛に食べさせたことが原因といわれています。普通の感覚ではおかしいと思っても、短期間に高品質の肉や乳が生産できるとなると生産者としてはそれに流されてしまうかなあという気もします。しかし、消費者としては人体実験をされているような事態は許せません。BSEだけでなく、他にも環境ホルモンや遺伝子組み換え、ホルモン剤食品添加物残留農薬、等々、食品を取り巻く環境は不安、心配だらけです。自給自足の時代と異なり、豊かさと便利さを手に入れた代わりに食が個人の手を離れてしまいました。多少の不便さを享受してでも出生のはっきりした食材で食卓を飾りたいと思うこの頃です。

 

 一方で、最近は食品業界も芋づる式に次から次へと食品に関する不当表示や偽装事件が発覚しています。大きな組織のやっていることと、他人事では済ませられません。要は倫理観の問題です。大量集団流通に対抗して一生産者と一消費者が直接取り引きしているのが直売ですが、頼りはお客さまとの信頼関係のみです。お陰さまでわが家も直売によって生業が成立しており、今回の一連の事件を戒めにして、さらに信頼関係を構築できるよう身を正して生産に励まねばと考えています。

 

 さてそれでは、わが家でできることは何かといいますと、やはり生産に関する情報を公開することであろうと思います。

 

 これまでも農家や生産の現場リポートのようなものを、この「のらやま通信」紙上等で取り上げてきました。道の駅直売所へ出荷している時には、毎週のようにそのつどの最新の情報を発信してきました。それによって特別大きな反響があったわけではないのですが、見てくれている人はいると確信しています。

 

 しかし、まだ足りないかもしれません。たとえば、梨の減農薬栽培に取り組んでいるといっても、以前と比較して回数が半分になったとか、先進事例として全国からの視察を受け入れているという表現でしか発信してきませんでした。個々の農薬の薬剤名を知ったからといってもという声もあるかもしれませんが、いつどれだけの量の何という薬剤を散布したという情報まで公開することが生産者としての誠意であろうと考えます。そのためには、ああやっぱりホームページですよね。残念ながらまだ遅々として進んでいません。