農薬を知ることから始めよう(のらやま通信 NO.89 2002年5月号)

農薬を知ることから始めよう

 今月は「正しい農薬の知識を身につけるメールマガジン」からの転載です(了承済み)。このメルマガは西田さんという方が個人で「農薬ネット」というサイトを開設し、農薬に関する様々な情報を発信しています。

詳しくは

http://nouyaku.net/index.html

を参照ください。

 以下は2002年5月4日発行の23号の内容で、農薬に対する立場で共感できる場面が多く感じられましたので、転載させていただくことにしました。特に「防除履歴をHPで公開するといったような情報公開を行うことが近道」の部分は、昨年度、わが家の父が千葉県の特別栽培農産物認証制度の検討委員として参加した時に、その導入を提唱したことと同様の主旨で、その主張が勇み足でなかったことを裏付けてもらえたようです。

 

 農薬に対する一つの視点として御理解いただければ幸いです。

 

【慣行栽培に光を】

  • 農薬の必要性は高い

 農業を行う上で病害虫や雑草の発生を避けることはできません。農作物を食べたいと思っているのは人間だけではないので当然のことです。人間が農業を初めて以来、このことは常に悩みの種であり続けました。それは現代も変わりません。しかし、1950年代頃から農薬が全国的に使用されるようになり、その悩みもかなりの部分は解決されました。おかげで私たちは豊かな食生活を送ることができるようになり、健康の増進や食事の楽しみなどを得ることができました。

 一方で化学物質による環境汚染が指摘され、野生生物の減少や人畜に対する被害などが危惧されています。しかしながら、それらは科学的な裏付けが乏しい場合が多く、いささかイメージ先行の感は拭えません。

 

  • 特別栽培がブームだが・・・

 そんな中、実際に農薬を扱う農家の方々には農薬の必要性を認めつつも使用することへの後ろめたさを感じることもあるのではないでしょうか。また、産地間競争の激化や世間の健康指向への対応として、特別栽培(減農薬や有機栽培など)で付加価値をつけていこうと考えている農家もありますし、流通サイドの要請に応じてそれらをやって行かざるを得ない農家もあることでしょう。農水省の統計結果によると特別栽培では収量が10%程度ダウンし労力は4%程度増えるものの、販売金額の増大により所得は8%程度増えるとなっています。また、輸入野菜に対する消費者の不信感の高まりや産地表示の義務化などもあり、国産の特別栽培作物に対する期待感は高まっています。それらを指向する農家は今後も増えていくことは間違いありません。

 では、従来通りの栽培(慣行栽培)を行うだけの農家はダメなのでしょうか。そんなことはありません。特別栽培が話題になっているとはいえ全体に占める割合は大きくありません。さらに完全無農薬栽培の割合となれば1%以下程度のわずかなものです。実際、日本および世界の農作物必要量を支えているのは普通に普通のことをやっている農家です。食うに困らない一定量の食料が確保されているからこそ特別栽培なども行えるわけで、慣行栽培の存在無くしては特別栽培もなりたちません。人間社会全体のことを考えれば、食料生産を支える慣行栽培農家こそが最も貢献度が高い人たちだと言えるのではないでしょうか。

 

  • 慣行栽培も進歩しています

 また、慣行栽培と一口にいってもその中身は年々進歩し、農薬や化学肥料の種類や施用技術も変わってきています。例えば水田の除草を考えてみると、80年代までは生育初期・中期・後期と除草剤をまく体型処理が普通でしたが、現在では一発剤を1回処理するだけで除草が済むことも普通です。また、その一発剤の中身にしても90年代はじめには10アールあたりの有効成分量が100〜200グラムを越える剤が主流でしたが、最近では20グラムを切るような剤もあります。施用方法もジャンボ剤やフロアブル剤などは、周辺への飛散がなく、散布時の安全性も高く、労力も軽減されるなどのメリットをもたらせています。除草剤以外でも田植え前の苗床に処理する箱処理農薬や無人ヘリの活用などにより、大規模な空散を行わずに済ますことができるようになってきています。これらは減農薬の表示などはできないわけですが、実際には大いに減農薬しているわけです。新しい農薬を活用したり、使い方を工夫したりすることにより「良い慣行栽培」を行うことが可能です。

 

  • 農薬の「良い使い方」とは?

 有機栽培を求める消費者や流通が増えたことにより、あらためてその難しさがはっきりしてきました。そのことが偽表示を助長したり、農薬を使っていないことは間違いないが実際には無登録農薬を使用しているなどの名ばかりの有機栽培を増長させ、消費者にとってもデメリットとなる部分があります。その流れを受けて「良い農薬」を「工夫して使って」結果的に「クリーンな」農業や農作物を得られれば良いのではないかという価値観が広がってきています。ただし、「良い農薬」「工夫して使って」「クリーンな」の定義はあいまいで人によってまちまちです。県やJAなどが独自に定義して認証していくような動きがあります。それらの定義には非科学的なものも見られます。もともと他の農作物と自分のところの農作物の差別化が目的であることが多く、目的が科学的ではないので定義が科学的で無いのもやむを得ないでしょう。

 

  • 良い農薬とは?

 「良い農薬」の定義は「良くない農薬以外」ということになるようです。一般的にまず毒物指定を受けている物や魚毒が強い物は避けられる傾向があります。また、環境省が発表している「SPEED98」のリストに掲載されている農薬を外す動きも見られます。これは「内分泌かく乱物質(環境ホルモン)」の研究対象として優先的に取り組むべき化学物質を記しており、決して環境ホルモン物質のリストではありません。しかし、しばしば誤解されて使うべきではない農薬リストと間違われて取り扱われています。ちなみにこのSPEED98のリストはインターネットなどで簡単に入手できます。それとは別に「生物農薬」や「フェロモン剤」などのいわゆるIPM(総合防除)資材の利用なども「良い農薬」と一般的に解釈されています。

 「工夫して使う」とは、できるだけ少ない量と回数で防除を済ましてしまうと言うことでしょうか。具体的には使用する農薬の種類や時期や組み合わせの工夫があげられます。標的病害虫以外をも広範囲に殺してしまうような剤は、かえって害虫を増やしてしまうリサージェンスという現象を起こしてしまう場合があります。これは主に害虫以外の生物、特に天敵をも殺してしまうことが原因です。特に小型の虫・ダニなどはリサージェンスによる大量発生がしばしば見られます。これらをふまえて農薬を選んで使えば使用量の削減や防除効果のアップが見込めます。

 そして「クリーンな」農作物とは当然のことながら残留農薬基準を満たしているもの。そのためには農薬を適正に使用すること、登録外の農薬は絶対に使わないことなどが必要です。また、イメージもクリーンな方がいいですね。これには防除履歴をHPで公開するといったような情報公開を行うことが近道です。ただただ耳当たりの良い言葉を使っていてはダメで、正直にはっきりと自信を持って自分自身が率先して事実を情報として出していきましょう。

 

  • 農薬を自分で選ぶ時代

 慣行栽培を行うにしろなんらかの特別栽培を行うにしろ、農薬を値段だけで選ぶ時代は去っています。自分自身の農業のスタイルにあわせて、自分自身で農薬の種類や剤形を選抜して、工夫しながら使っていくのが当然になってきています。そのために必要な情報は、防除歴を参考にするなどは従来通りですが、インターネットを使って情報収集したり、各種農業雑誌や新聞などの防除情報を参考にしたり、農薬メーカーやJAや関連公的機関に直接問い合わせたりなどの手段が最近のいわゆるIT革命でだれでも簡単にできるようになりました。それらと相談しながらよりよい植物防疫・農薬使用を進めていっていただければ、農家自身はもちろん消費者、しいては自然環境に対しても好結果となるはずです。