梨園の冬仕事(のらやま通信 NO.85 2002年1月号)

梨園の冬仕事 

 12月から3月上旬までのほぼ3ヶ月間、梨園では剪定作業が続きます。

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剪定前の様子

 葉が落ちた梨の樹には1年の間に伸びた枝が林立しています。これを新しい梢(こずえ)と書き「新梢(しんしょう)」と呼びます。剪定に取りかかる前に、まず新梢がどのような状態かを見て、剪定の方針を判断します。新梢は1mから1.5mぐらいが適当といわれます。これより短いと樹勢が弱く、長いと樹勢が強くなり過ぎていることの現れです。樹勢の弱い樹は強めに切り詰めて、樹勢の回復を待ちます。新梢が特に短いような樹は何か病気に罹患している可能性もあります。逆に2mもの新梢がにょきにょきしているようでは養分の多くが果実ではなく樹体に回っている状態です。去年の剪定が強めに切り過ぎたことがその原因で、今年は弱めに切って樹勢を制御しようという方針になります。

 

 梨の樹は、樹の骨組みを形づくる「主枝」と、実を育てるのに働く「側枝(そくし)」から成り立っています。根から立ち上がったところが「樹幹」、そこが枝分かれして主枝になります。その数は2本とか3本、4本の場合があります。主枝から出ている枝が側枝で、側枝のうち実をつけるものを「結果枝」と呼びます。主枝と側枝の間に「亜主枝」を設ける場合もあります。

 

 結果枝は2年、3年と実をならせていきますが、成長して太くなり花芽が付かなくなると、新しい結果枝へと更新します。その時期は品種によって異なり、幸水で3年程度、豊水で4年程度といわれます。その間に新しい側枝を結果枝になるよう誘導、育成していきます。そういう状態の側枝を「予備枝」と呼びます。

 

 梨の剪定作業はただ枝を切るだけではありません。枝を切った後に「整枝」あるいは「結束」「誘引」という作業、つまり枝を棚に付ける作業があります。

 

 梨の樹は畑で目にするように横に枝を伸ばすという性質がもともとあるわけではありません。剪定前の新梢が天空に向かって伸びているように、本来は上へ上へと伸びていきたいのです。それを枝が折れないように横に寝せて棚に縛り付けて、梨の樹にストレスを与えているわけです。梨の樹は上へ伸びたいのにできない。自分の生命体としての危機を感じて、今のうちに子孫を残しておこうという機能が働き、花を付け、実を一生懸命育てることになります。梨栽培というのは、梨の樹をいじめて梨の樹が働いたものを搾取しているわけですが、言い換えれば、植物の生理現象をうまく利用して効率的に産物を生産する高度に発達した農法であるといえます。

 

 下の写真は新梢の芽の様子です。左側の下向きに出た大きな芽が花を咲かして実をつける「花芽」、右側の上向きに出た小さな芽が葉だけを出す「葉芽」です。花芽がないと実もつきませんが、花芽ばかりでは養分を消費する方が勝り、養分を生産する葉芽も適当にないと困ります。葉芽ばかりの枝を「力枝」と呼ぶこともあります。新梢の花芽を利用しようと棚付けした一年目の結果枝を「長果枝」、二年目以降の結果枝を「短果枝」と呼びます。

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 さて、枝の呼び名がいろいろと出てきましたが、枝の名称はいくつ出てきたでしょうか。

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剪定後の様子