目でも楽しめるハレの食べ物(のらやま通信 NO.86 2002年2月号)

目でも楽しめるハレの食べ物

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 左側がサザンカ、右奥がバラ。他にもツバキ、ヒマワリ、、チョウ、ツル、カメ、寿、…。何かといえば、お寿司の名前です。

 千葉県南部、房総の山間部の伝統的な郷土食に『太巻き寿司』というものがあります。冠婚葬祭などのごちそうとして、代々、農家に伝えられてきたハレの食べ物です。それを県全体の郷土食に育てようと、以前から生活研究会という農家の女性の会を中心に普及活動が行われてきました。

 わが家の祖母も沼南町生活研究会会員として、町の文化祭や町民対象の太巻き寿司講習会などを通じてその技術を磨いてきました。最近は、町内の小学校PTAの家庭教育学級のプログラムのひとつとして取り上げられることが多くなり、今年も3校で講師をしてきました。

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小学校での講習会

 太巻き寿司を作るには、まず巻き込む部材を用意します。

 たとえばサザンカのオレンジ色の花心は山ごぼうの漬物です。桃色のつぼみはデンブをご飯に混ぜて、花びらは市販の寿司の元を使った寿司飯、緑色の葉はホウレンソウです。下の写真のバラの場合は、黄色い花びらは薄焼き卵、花びらに包まれたピンクのご飯はシソ味の寿司の元、赤い部分は紅ショウガの千切り、葉の部分はホウレンソウだそうです。

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 他にも、黄色い部分はクチナシで、赤いところはシソジュースやツルムラサキの実でカンピョウを着色して、緑色はタカナの漬物を使って、オレンジ色ならニンジン、ご飯に抹茶を混ぜてもいいかも、といろいろと試みることもできます。色だけでなく美味しさも問われますから、工夫のしがいがあるというものです。

 

 さらに、用意した部材を組み合わせて段取り良く巻き込んでいきます。ち密に計算してやらないと思い通りの形にはなってくれません。たいへん根気のいる作業です。たとえばヒマワリでは、花びらとなる8本の細巻きを用意しますが、同じ径の細巻きでないと花びらの大きさが揃いません。細巻きが太すぎても、まとめた時に太巻きのノリが足りなくなったりしてしまいます。

 

 部材を仕込むのに1時間、巻き込むのに1時間、一本の太巻き寿司をつくるのにかかります。でもイメージ通りの切り口になれば、それまでのストレスも吹き飛びます。家庭教育学級に参加したお母さん方からも、切って鮮やかな色と形が現れた時にはあちこちで歓声が上がったそうです。こんな会話の弾む太巻き寿司は『スローフード』、それとも『スロー風土』?。