梨の収穫振り返り(のらやま通信 NO.70 2000年10月号)

梨の収穫振り返り

 秋のお彼岸を迎え、ようやく涼しくなりました。梨の収穫は「幸水」「豊水」が終り、稲も収穫しました。長かった暑い夏を振り返ってみると…

 梅雨らしい日が続かないまま7月10日頃には梅雨が明け、8月30日に雷雨があるまで当地では雨がほとんどありませんでした。連日、気温35℃前後にもなって梨の葉にもほこりが溜まるようでした。

 幸水という梨は30℃弱程度の気温が適しており、その年の最高気温を記録した日から2週間ぐらいで収穫できるという話があるくらいですから、今年の夏には戸惑ったかもしれません。7月23日に34.9℃を記録した後も涼しくなる気配はなく、9月2日には37℃にもなったのですから。樹勢の悪い木は早々と実が赤らみ、「今年は小玉か」と慌てさせられました。ところが、しっかり根の張った木は十分な太陽光線を受け、実をどんどん大きくさせました。昨年、一昨年と早熟傾向でしたので、その気のお客さまや市場からは、お盆前に「幸水はまだか」という声がしきり。品不足の上に未熟果が出回ったためか、今年の評判は今ひとつ。それでも収穫後半には一果500gを超える大玉がぞろぞろ採れて、生産者としては満足、満足。

 本来、千葉県産の路地もの幸水の盛りは旧盆中から20日頃の一週間。それなのに、なぜ8月始めから店頭に幸水が並ぶのでしょうか。実は、薬剤を使うことで見栄えだけ採れ秋を演出することができるのです。花が咲いてから100日ほどで収穫される幸水は大玉にすることが課題です。そこで成長促進剤(ジベレリン)により一週間から10日、成長を早めます。さらに収穫予定日の一週間前に薬剤により強制的に成長を止めます。すると大きな実で表面が黄色く色づいた幸水が路地ものより早くでき上がります。お盆前に出回る県内産の幸水のほとんどはこのようにつくられます。

 消費者には季節先取りの秋の味覚が手に入りますし、生産者にとっては、お盆需要で高価格で取り引きでき、収穫期を長くして労力分散が図れるというメリットもあります。味覚はやはり路地ものと差があるといわれ、別の品種といった方が誤解を受けないかもしれません。直売中心のわが家ではこの技術を使っていませんが、需要があって生産力も高まれば、「早生幸水」とでも銘打って商品化しましょうか。

 

 豊水はこの夏の暑さと乾燥を歓迎のようでした。暑い8月の間に実がどんどん大きくなって、一果700gを超える新高並みの大きさになるものも。味も新規のお客様がさらに新しいお客様を紹介してくださるほど。過去最高の実りと言えるかもしれません。一般的には、豊水よりも幸水の方が人気がありますが、今年の夏は豊水の名を上げることができたかもしれません。

 

 9月中旬、「かおり」という青梨がごく一部で流通しています。わが家でも2本だけあって、特定のお客様から毎年ご指名をいただいています。以前からあった品種ですが、今年は問い合わせが急増しました。その名のごとく、梨にはめずらしくほのかな香りがあって、ほわっとした甘味の梨です。大玉にしないと美味しくない。収穫間近になると自然落下してしまう。年による出来具合の差が大きいなど、作り手には困った梨です。その不確実さから正式な品種登録はされずに、「かおり」という通称がそのままで、民間伝承のように広まったようです。はたしてこの人気は本物でしょうか。

 

 さて稲です。8月30日、午後2時。長い暑い夏の終わりを告げるかのような突然の雷雨でした。その日はわが家の稲刈り初日でした。それから9月17日まで停滞前線やら台風やらで雨模様。その合間をぬっての稲刈りになりました。条件のいい日には作業が集中し、夜の7時、8時になってもライトをつけた刈取脱穀機(コンバイン)が田んぼで作業していました。

 それにしても、ここ数年、手入れの足りない田んぼが目につきます。雑草の中に稲穂が見えるようなところもあって、いつ稲作をやめたっていいんだと意思表示しているようです。米は安いし、機械は高い。年寄りがいるから田んぼをやっているけど、といわんばかりです。わが家でも祖父母が梨の管理作業の合間に草取りなどをしてくれるので体裁がとれていますが、将来はどうなりますやら。

 

 高温、乾燥、長雨と今年の夏も天候に振り回されました。作柄や作業の段取りなどが左右されるので、天気情報は農家の一大関心事。そんな農家の強力な助っ人をウェブサイト(http://thunder.tepco.co.jp/)に見つけました。降雨、雷雲情報を6分刻みで提供してくれるもので、東京電力が送電線管理のために収集管理している情報です。残念ながら区域は関東地方のみです。8月30日午後の降雨もお昼の段階で予想していたのですが、あれほどの雷雨になるとは。雷雲情報を見ていると、突然、雷が鳴り出すものもあるのを知りました。特に利根川手賀沼周辺は水蒸気が多いためか雷雲になりやすいのかもしれません。