マルハナバチ生産から見えたこと(のらやま通信 NO.69 2000年9月号)

マルハナバチ生産から見えたこと

 わが家の長男(高一)のこの夏休みの課題の一つが職業体験。茨城県取手市にある『キャッツ・アグリシステムズ』という事業所に、三日間、お世話になりました。そこは野菜生育環境を自動制御する温室システムの提供と送粉昆虫(マルハナバチ)、天敵生物の増殖生産を事業内容としており、オランダからノウハウを導入した無農薬の野菜づくりを提案しています。

 長男がお手伝いしたのはマルハナバチの増殖生産で、その分野では日本初の本格施設だそうです。マルハナバチは温室施設内でトマトやナスの受粉を効果的に行う蜂で、数年前まではオランダから輸入していました。マルハナバチを使わない場合は手作業によるホルモン処理に頼るしかなく、マルハナバチを使うと省力化できるうえに品質も収量も上がる。マルハナバチを使うと農薬(殺虫剤)が使えないために、天敵防除が必要になる。そこでマルハナバチを使いたいために天敵を導入するというケースが多くなっているともいわれています。これからの施設園芸のカギを握る昆虫ともいえます。すでにオランダでは生産するトマトの90%以上がマルハナバチ・天敵利用の施設で生産されているそうです。

 職業体験のレポートをのぞき見してみました。

 《一日目》

  • 『キャッツ・アグリシステムズ』やマルハナバチを 紹介したビデオを見る。

 オランダではかつて日本より農薬使用量が多かったが、現在は無農薬化が進み、施設トマトの収穫が高校生のアルバイトにもなるような若者も楽しめる農業になり、後継者不足は昔のことになったこと。マルハナバチは花粉を運ぶスペシャリストで、一匹の女王蜂から生まれる蜂は数千匹だが、そのうち商品となるのは20%ぐらいであること、などを知る。

 木箱には毎週水曜日に2000匹の女王蜂を入れる。再利用するために、洗剤を使わずに洗浄するそうだ。巣箱には100匹以上のマルハナバチを入れて発送する。ハチが活動しやすいよう巣である本体と蜜箱に分かれた構造で、使用後の処分も配慮した段ボール製。

  • 初日の感想

 朝礼に出たときは緊張したが、一日が早く終わった。マルハナバチを担当しているスタッフは8人、パートさんも8人で、「蜂」とかけているのだろうか。

 

《二日目》

  • 巣箱、木箱作り

 初日同様、午前中は巣箱、木箱作りでスムーズに作業できたが、木箱が120箱ぐらい足りずに作業が午後にまで持ち込んでしまった。

  • 蜜箱つくり

 出荷されて約一月間、マルハナバチが活動するための食料となるシロップ2kgを入れる箱。段ボール製でのり、はさみを使わない組み立て式。『キャッツ』の資材はほとんどが段ボールか木でできている。

  • 清掃作業

 残り一時間で清掃作業に入る。ゴミと再利用のための洗浄処理に分ける。段ボール箱可燃ゴミ。木箱は高温処理して再利用。プラスチック製のふたも洗浄して再利用するが、接着テープはできるだけはがし取り不燃ゴミに。蜜を入れるボトルのうちボトルとキャップは洗浄して再利用。残った蜜もゴミや虫の混入していないものは再利用に回す。廃棄物を出さないよう配慮されている事業所だと思った。

 

《三日目》

  • レッドルーム(赤色部屋)で巣と蜜箱をテープで接着する作業をした後、女王蜂の箱入れ作業を見学。

 午前中はずっとレッドルームに入っていた。目が慣れてしまい、休憩時に外へ出るととてもまぶしかった。赤色光は蜂には見えないらしい。蜂にとっては暗闇の中で、1つの木箱に一匹づつ女王蜂をピンセットでつまんで入れていく集中力の必要な作業のようだった。

 部屋の中は湿度があって暑かった。この部屋は蜂にとっては『春』の部屋だという。他に『冬』『夏』『秋』の四季の部屋があって、人工的に冬眠させたり、交尾させたりして、毎週千匹単位の女王蜂を生産しているという。

  • 体験学習から学んだこと

 最終日、用意した木箱が足りずに飼育棚が埋まらなかった。事前に数量をチェックして、作業を進めるべきだった。二日目の木箱作りも予定時間内で終わらず、時間延長してしまった。原因は途中で作業人員が減ってしまったことだが、がんばれば終わったかもしれない。実社会でも時間通り、計画通りにいかないことがあるからいつも全体を頭に入れておくことが重要であることを学んだ。