2000年の梨づくり(のらやま通信 NO.67 2000年7月号)

2000年の梨づくり

減農薬で梨づくり

 千葉県農業試験場の現地試験圃場になって3年目。

 今年も、一般的な農薬散布回数の半分、農薬散布の目安となる県防除暦の回数の2/3で実用可能かを、わが家の畑で観察しています。もちろん、特別な資材、たとえば漢方薬のようなものも使わず、1回当たりの散布量も通常の量で。これまでの経験でほぼ確信を得つつあるので、今年は全園で採用しています。現在のところ、大きな問題はないようです。

 数年来、話題としてきたフェロモン剤(メスのフェロモンを合成して交尾をかく乱させる資材)。町組合研究部で3年間試験的に取り入れてみた結果、7月に収穫するモモ用に開発された資材をナシに流用しても効果がないのではとメーカーに問題提起してきました。ようやく9月まで薬効のある成分に変えたナシ用のものを試作してくれ、市販前の今年、わが家の畑でも実用試験しています。

 減農薬研究に取り組んで9年目を迎えた町組合研究部では、半分遊び心を持って、施設栽培用に開発されているアブラムシの天敵アブラバチ、タマバエや、野菜用に開発された微生物農薬を新たに試しています。全国から梨農家の視察を受け入れ、梨の減農薬栽培としては先進事例の一つと自信を持てるようになりました。

有機肥料で梨づくり

 残念ながら農薬を減らしているだけでできた梨が評価されるほど市場は成熟していません。口にするものをつくっているのですから、生産者としてもやっぱり「美味しい」という声が聞きたい。そこで今年も堆肥中心の有機肥料で育てています。

 ここ5年ほどは梨に最適といわれる馬の厩肥を10a当たり3t以上を投入してきました。最近、梨の棚が低くなったのは、堆肥で地面が上がってきたからかも知れません。

 

 梨畑に草を生やしているのは、草が延びたら刈ることで有機物を畑に還元するためです。冬の太陽エネルギーも有機物に置き換えるため、昨年からは試験的にライ麦を蒔いてみました。今年は種苗メーカーのモデルにもなって、カタログに写真が掲載されたりもしています(カネコ種苗2000秋季目録no.54飼料作物ガイド)。

 ライ麦は地表の葉茎と地下の根を合わせると、乾燥有機物換算で10a当たり7,800kgに相当するとか。土づくりのためにこの秋には全園でライ麦を導入しようかと考えています。

 

忘れた頃に天災がきた

 5月24日のお昼時でした。黒い雲が急に近づいたと思ったら、突風に乗ってピンポン玉大の雹が飛んできました。庭の草花や野菜は砕かれ、北側の窓ガラスは何枚も割られ、梨畑に架けられた防災網の上面にはどんどん白い雹がたまって行きました。ほんの10分ぐらいの間でした。雹の去った後からは陽が差し込み、千切られた樹の葉の混じったかき氷状の池が庭に光っていました。

 当地では17年前の昭和58年7月27日にもほぼ同様の降雹があり、わが家の梨は全滅、数年はその影響が残りました。その経験から以降、梨畑に多目的防災網を架けるようになりました。今回は見事に防災網の役割を果たしました。ほとんどの梨は無事でした。網があってよかったなんていうことがない方がもっと良いことなのですが。

 今年はひと月前の4月24日にも小規模な降雹がありました。7月8日には早くも台風の来襲を受けました。不安定な天候はこれから一層きびしくなるかもしれません。今回の降雹は、当地が台風も地震も大雪も水害も火山噴火も縁がなく、天災には恵まれているとたかをくくった甘っちょろい姿勢への警告のようです。

 網棚の修繕や防災網の架け替え作業をしながら、「天災は忘れた頃にやってくる」という言葉に改めて感心させられた今年の梨づくりです。