ピンポン玉大の氷の塊(のらやま通信 NO.66 2000年6月号)

ピンポン玉大の氷の塊

 我が家は2000年5月24日12時15分ごろに雹に見舞われ、被害を受けました。ほんの10分か15分の短い時間でした。黒い雲があっという間に近づき、突風といっしょにピンポン玉大の雹が飛んできました。

 庭先の花や自宅用の露地野菜は砕かれ、建物の北側の窓ガラスが10枚程度割られ、庭や道路は飛ばされてきた樫や杉の緑の葉で覆われました。梨畑の防災網には雹が積もり、部分的に下棚にまで垂れ下がっています。網棚も相当ゆるんでしまいました。幸い西方の畑ほど降雹の中心から外れ、梨の枝葉や果実にはほとんど影響がないようです。

 

 千葉県北部では昭和58年7月にも壊滅的な降雹被害を受けています。以来、梨畑には9mm角目の多目的防災網を設置するようになりました。“多目的”というのは降雹、強風、鳥や夜蛾の害等への対策なのですが、主に降雹対策という意識があって、これまで被害らしい被害がなかったものですから、網の開け閉めの手間や架け替え費用がかさむのでやめようかなんて声も聞こえていました。実際、隣の白井町では3cm角目の防鳥網にしてしまい、大きな被害を受けた農家もあったようです。今回、初めて多目的防災網の威力と必要性を見せ付けられました。

 我が家でも山林の樹陰になるので網のかけていなかった(設備はあったのですが)畑の一部があって、その部分は葉は千切られ,枝は折られ、樹皮は剥かれ、もちろん果実は砕かれといった悲惨な状況です。

 

 降雹被害額、千葉県全体では51億円余りとか。そのうちの我が家分は梨関連で、破れた網の交換と梨の減収概算分あわせて300万円と役場に報告。しかし、網をかけていなかった約10aの樹体のダメージが予想以上に大きいかもしれません。昭和58年の被災では2年後にはほぼ元通りになったのですが、今回の方が雹が大きかったので、はたしてどうなるか。また、梨の樹や実を守ってくれた防災網も穴が開いたり、縁が切れたりで、更新して3,4年しかたっていなくとも、もう交換しなければなりません。平米100円以上もするので10年は持たせたかったのですが。さらに、緩んだ網棚の補修。前回と今回の二回の降雹をまともに受け止めた梨畑の網棚は突風と網に積もった雹の重さでアンカー(棚止め)がガタガタです。その補修する手間と資材を換算すると…。梨の被害額はまだ増えそうです。

 

 周辺では水田の被害も相当ありそうです。被災直後の水田はそれまでとあまり変わらないように見えました。しかし日がたつにつれ、所によっては一枚の水田が二色に色分けられてきました。降雹時に風下であった部分は緑色をしているのですが、風上にあたる部分は代掻き直後の様です。つまり、降雹時に突風が吹き水田の水が風下に寄せられ、裸にされた風上の苗は雹の直撃を受け、風下の苗は水に被ってダメージを免れたようです。幸い我が家の水田は早めに田植えをし、深水にしてあったので被害はそれほどでもないのですが、田植え直後の水田ほど被害が大きいようです。

 

 隣の我孫子市に湖北台団地という開発されて30年以上になる公団の団地があります。4階建ての集合住宅の1階から4階までのすべての北側の窓ガラスが機関銃にでも撃たれたかのように割れていったそうです。まるで映画を見ているようだったと。

 

 車に乗っているときに降雹に出会った人は、雹が車体をたたく騒音と周りが真っ白になって何も見えなくなり、生きた心地がしなかったそうです。ガラスが割れて外に飛び出した人も雹に打ち付けられ、全身打撲傷に。ビニールハウスは骨組みだけになり、防風垣の葉はなくなり、窓ガラスは割られ、瓦も飛び。こんな被害を受けた幅4、5kmの帯状の地域が成田周辺を抜け、九十九里まで達しているそうです。当日午前中の天気予報では、北関東で局地的な大雨が早い速度で移動すると話していました。ラジオでも群馬県館林で凄い雨になっているというレポートがありました。その時点で降雹までは予測できなかったのかもしれませんが、今日の気象科学と情報機器によって、たとえば米国の竜巻に対するような降雹の警報システムはできないものでしょうか。

 

 役所の危機管理に対しても被災住民の不満が高まっています。台風も地震も大雪も火山噴火も天災に縁がなかったという言い訳もありますが、災害対策本部は形ばかりが、何をしていいのかわからないというのが実状のようです。

 また、いろいろな仕組みも被災者からみれば不合理な点が多いことに気がつきます。出荷する野菜が全滅し当面の仕事がないので被害を受けた水田に稲苗を補植した農家がありました。しかし、そんな努力も災害共済金は収穫期の評価が基準で、被災後に農家自身が修復した分は換算されないということでした。被災融資を受ける場合も施設については説明会から1週間以内という短期間に業者の見積書も合わせて提出しなければなりません。梨の多目的防災網などこれほど有用なことがわかっていながら災害共済に加入できません。

 とにかく周辺では大きな被害が出ましたし、我が家の梨も多少減収しますが、大部分は収穫できると思います。米も大丈夫です。天災は防げませんが、網を修理し、近い将来に降雹がないことを祈るだけです。