農産加工への挑戦(のらやま通信 NO.65 2000年5月号)

農産加工への挑戦

 我が家の母が就農して丸4年がたちました。初めの頃とは違って、母も今や重要な労働力です。がしかし、梨作りの決定権を持つのは、夫である我が家の父。自分が決断してすすめていける仕事をもちたいと考えてきました。自己決定というところがポイントで、自己実現につながるような気がするのです。

 母が我が家の農家経営の中で自己決定できる仕事、それは『食品加工』だと思い始め出したのはこの2年ほどのことです。それ以前に雑誌を読んでいた父が「加工っておもしろそうだな。」と言ったことがあります。「何言ってるのよ。家事と子育てと梨の世話で精一杯。これ以上仕事を増やさないで。」と母。それが今では生きがいになっているという様変わりに、母自身が驚いています。なぜだろうと振り返ってみると、

  1. 農業関係の雑誌を読むと必ず農産加工の記事がある。
  2. 農業関係の研修会やイベントで、加工に取り組んでいる先輩方の話を聞くと、その人達が生き生きしている。
  3. 加工の達人である祖母が台所で諸々の加工品(つけもの、みそ、ジャム、水煮、ビン詰め)を作っている。
  4. 新しいことにチャレンジできるのは今しかない。50代ではちとしんどい気がする。

 まあ理由と言ったらそんなところでしょうか。

昨年3月、農業女性の全国集会の『田舎のヒロイン全国ネットワーク』に参加して、山崎洋子さんと話をするチャンスに恵まれました。山崎さんはこの集会の呼び掛け人で、全国の農業女性のリーダーといった存在のとても魅力的な方です。加工をやりたいという話をすると、「思うことはいくらでもできるけれど次は自分が何をするかだね。」そう。thinkでなくDoなんだ。

 それから母の加工所へのチャレンジが始まりました。いかに農産加工をしてそれを販売するか。よくよく調べてみると営業許可といっても、調理師とか栄養士とか特別な免許が必要なわけではなく、家庭の台所とは別個の独立した施設なら許可されるということがわかりました。さいわい使っていない台所があったのでそこを改造できないだろうか。まずは専門家に聞くのが早道と保健所へ出かけて行きました。初めての保健所訪問。次から次へと来客があり、初めての私にはとりつくしまがありません。待つこと30分。

「農家の副業で加工をしたいんですがどうすればいいのか教えて下さい。」

「加工って、何をつくりたいの?」

「あのう、餅とかまんじゅうとか……」

「作るものによって、許可の名称も施設も違うんだよ。もう少し考えをまとめておいで。」チャンチャン

 それから数カ月後のある日。再度、保健所へ。

「菓子製造で営業許可をとりたいのですが、既存の台所で今は使っていないものを改造するつもりです。」

「おたくは水道なの、井戸なの?井戸水なら滅菌機をつける必要があるね。出入り口は住居とは独立させること。加工所部分と居住部分は壁や扉ではっきり区別できること。」

 こんな調子で営業許可をとるために必要な施設の条件について細々と説明がありました。不特定多数のお客様に食品を販売しようというのですから当たり前のことです。トイレ、手洗い、照明、換気扇、流しなど、食品衛生法に基づいた施設基準があるわけです。逆に施設さえクリアしていれば許可はおりるともいえます。

「それから水質検査や検便も必要だね。工事に取り掛かる前に図面を見せて。」

 保健所の担当者の親切なこと。図面が出来、またまた保健所へ。OKがでました。

 いよいよ台所の改造です。加工所部分を独立させるために扉をつけたり、押し入れに手を加えて原材料の保存庫を作ったり、滅菌機の取り付け等々。大工さん、電気屋さん、水道屋さん、建具屋さんのお世話になりました。

 

 そうこうしているうちに梨の収穫期に突入、加工所計画はちょっとストップがずう~とストップになり、気がつくと年が明けて2000年になってしまいました。(加工品の試作に夢中になってしまって……)こりゃまずい、せっかく台所を改造してもOKをだしてくれた保健所の人が転勤したらふりだしにもどってしまうかも。3月いっぱいを目標にふたたび活動開始です。

 不足している厨房用品を買い、水質検査OK、検便OK、諸々の申請書類を書き、ようやく加工所の検査にこぎつけました。加工所の許可は保健所の人次第なのよ、という話を先輩から聞いていたので検査前1週間はドキドキ。やたらほこりは気になるし、流しのステンレスの傷さえも気になるという具合。

 いよいよ検査当日です。白い保健所の公用車が到着、中から2人のGメンの男性。あ!! 保健所の窓口で親切にいろいろ教えて下さったSさんとTさんです。

「ここが入口ね、ここで手を洗って身支度はここで整えるわけだ。ここが流しで材料の保存庫はここと。この設備で流しを2槽にすれば赤飯なんかもつくれるよ。それで飲食の許可をとっている和菓子屋さんなんかもあるよ。」

 なんと優しい保健所の人。めでたく“すぎのファーム”は菓子製造をしてお客様に販売してもいいというお墨付きをいただきました。

 

 さてさて次は商品開発です。目下の商品は我が家のお米コシヒカリヨモギの春の新芽をつきこんで作った草餅です。ヨモギつみには娘たちも一役買い、餅つきの朝には祖父母が早起きをして米をたくというように、まさに我が家の味です。

 これからは、自家製の作物や地場の材料を使って

<安心、安全で、おいしい、おかし>を作っていきたいと思います。