稲作のコストダウンを考えて(のらやま通信 NO.75 2001年2月号)

稲作ののコストダウンを考えて 

 昨今の米価急落に対処するため、米生産のコストダウンが余儀なくされています。

 10a当たりの米の生産費に占める労働費の割合は約30~40%(アメリカでは5%前後)といわれています。10a当たりの労働時間は平成5年の資料では38.7時間です。主な作業としては苗代、耕起及び整地、田植え、灌排水管理、稲刈及び脱穀がありますが、このうち田植えまでの労働時間が17.1時間で、全体の45%に相当します。

 これらの作業を省く稲作技術として、不耕起、直播きなどが全国で試みられています。環境保全米が農家自身や在野の研究者によって取り組まれている例が多いのに対し、省力稲作は各県の農業試験場など公的機関を中心に取り組まれているようです。

 不耕起、直播きの栽培方法を整理すると、いくつかのパターンがみられます。

(1)湛水状態の田んぼに直播きする方法

 耕起、代かきまではこれまでと同様の作業をし、そこへ直播きします。アメリカなどで軽飛行機から種子籾を播くというのもこれに含まれるでしょう。水中で籾は発芽しませんので、酸素を発生するカルパー粉剤を籾にコーティングします。数年前、近所で試みましたが、発芽せず失敗しました。秋田の知人が無人ヘリコプターで試みた時は、鳥害でさんざんな結果だったそうです。発芽の際の性格からジャポニカ種は向いていないという説もあります。

(2)乾田状態で耕起して直播きする方法

 田んぼを耕起して、イナワラのすき込み、腐熟促進や除草をしたうえで籾を直播きします。直播き前後に雨が降ると作業ができないなどの弱点があります。愛知県農業試験場を中心に、冬期に代かきをするという愛知方式と称する栽培技術が研究されています。

(3)乾田不耕起で直播きする方法

 前作の稲株やワラ、雑草に覆われた田んぼに溝を堀ながら籾を落し、覆土するという専用の播種機を使う栽培技術で、岡山県農業試験場を中心に研究されています。耕起、代かき、田植え作業を播種一回の作業でやってしまうために、労働時間は大幅に削減できます。慣行農法の1/10になるという試算もあります。また、籾が土中で自然に吸水して、地温が適温になると発芽するため、田んぼへの通水前2ヵ月ぐらいの間に播種作業をすればよいことになり、作業時期の自由度も広がります。

 耕起、代かき作業は除草、田面の均平、漏水防止、田植えをしやすくするなどを目的に行われてます。これに対し不耕起は、排水、通気性が高まり、地力が向上する。がっちりとした稲ができ、冷害の影響を受けにくい。作業がしやすくなるばかりでなく、田んぼの生物相も豊かになる、などの長所がいわれています。

 乾田不耕起法は、発芽期には田んぼが乾いていることが条件になります。現在の水田の多くは基盤整備され、播種時期の3、4月は乾燥しますので、一時的にでも乾田化することは比較的容易になっていますが、東北日本では湿田が多いといわれています。乾田不耕起の事例が西南日本に多いのはそのためかもしれません。

(4)不耕起移植法

 不耕起の長所をそのままに、発芽の問題や慣行稲作からの移行のしやすさを考慮して提案された方法です。不耕起の田んぼに水を張り、表面が少し柔らかくなったところで、成苗まで育てた苗を移植します。切り溝をつけるための専用の田植え機も開発されています。

 不耕起の一番の問題は雑草対策です。面白いことに不耕起にすると雑草が年々減ってくるという報告があります。地表面が動かないので土中に入っている昔の種子が出て来ず、しまいに種子切れになるというのです。しかし現実的には、除草剤の助けを借りることになります。岡山の乾田不耕起の事例では、播種の前後にラウンドアップ系の除草剤を1回ずつ、入水前に選択性の除草剤を1回、入水後に通常の除草剤を1回の計4回散布しているようです。愛知方式でも現在のところ、3回が基準のようです。不耕起移植法でも入水前にラウンドアップ系の除草剤で春草を抑えておくといいます。ラウンドアップは主成分がアミノ酸とリン酸で、土中で微生物によって分解され、最終的に肥料になるので残留性や毒性の心配がないというものの、消費市場でどう評価されるでしょうか。

 

 ならば、環境保全米技術と省力技術を組み合わせたらどうかということで、気になる技術があります。

 裏作でレンゲや麦、大豆をつくり冬の雑草を防ぎそれらが入水後は緑肥マルチとして雑草を抑えると共に有機肥料にもなるというものです。稲籾は、冬作がまだ背の低い3月のうちに株間に直播きしておきます。冬作の種子もレンゲなどは稲刈前の田んぼにばらまいておけばOKです。これぞ究極の省力かつ環境保全型、さらに土地の有効利用型の稲作と注目しているのですが、連作すると発芽が悪くなるなど、まだまだ課題の多い栽培方法のようです。でも実際に取り組んでいる農家もあるのですから、勇気づけられます。

 ポット苗の時もそうでしたが、直播きも専用の播種機が必要で、コストダウンするためにも新たな投資が必要というわけです。今の稲作農家に新たな投資をするだけの体力が残っていればいいのですが、わが家の場合も進取の気持ちはあっても先立つものがなくて、悶々としています。補助金とか機械の共同化など、手がないわけではないのですが、それでも原資が必要ですから。今年もまたこれまでの田植機を使った稲作に取り組むことになりそうです。