環境保全米というけれど(のらやま通信 NO.74 2001年2月号)

環境保全米というけれど

 今年も米作りが始まります。昨年の米価は一昨年よりさらに10%引き下げられました。減反達成による補助金だけが頼りで、稲作農家は足元ふらふらの様相です。わが家は昨年減反しなかったものですから補助金も期待できず、収穫量もふえて在庫で頭を抱えています。以前は減反もしていたのですが、何をしても手間がかかり、結局、機械の揃っている稲作が水田を管理するのに最も効率的で生産的でした。しかし、これだけ米余りで値下がりしている状況では米作りに対して抜本的な組み替えが必要と感じています。

 新しい稲作の動きをみますと、環境保全米づくり(たとえば除草剤を使わない米づくり)と籾の直播きなどの省力米づくりの二つの取り組みがなされているようです。

 環境保全米づくりは環境に配慮し、安全な食品として差別化を図り、有利に販売したいという動きです。将来は標準的な稲作技術になるはずのものです。

 驚く方も多いと思うのですが、現在広く行われている稲作では、種子の殺菌に始まり、育苗の土の殺菌、育苗中の殺菌、移植時の殺虫、移植後の除草、夏期の空中散布等、薬剤の原体(農薬には薬効を示す原体が2~3種類含まれるものが多い)で数えると防除回数が10回を超えるといわれています。その防除の半分は育苗中です。欠株が出ないように機械で移植するためには、苗の密度を高めることになります。しかし、密度が高いと苗は軟弱に育ち病気に弱くなり、また苗も大きく育てることができません。未熟な稚苗(播種後20~25日育てた苗)を移植することになると、田植え後も殺虫剤や除草剤の助けが必要になります。

 除草剤は、どの地方でもどの田んぼでも通用する技術として普及してきました。農家を「苦役労働から解放した」といわれる一方で、環境ホルモンが含まれていることが明らかになり、除草剤を使わない稲作が全国で試みられています。アイガモ農法とか紙マルチ、米ぬかによって雑草を抑制するという話を聞いたことがあるかもしれません。他にも、酸欠や遮光によって抑草する深水管理や木酢、活性炭などの資材、コイやタニシなどの共生動物を活用したものが数多く提案されています。どの方法が除草剤に代わりうるかではなく、一枚一枚の田んぼの条件に合わせていくつかの方法を組み合わせて抑草するということが大事のようです。

 たとえば、ポット苗というものがあります。苗の一株、一株をポット状にして育苗します。隣の株との間で培土の競合がありませんので、苗は丈夫に大きく育てることができます。移植も根を切ることなくできます。田植え三日後には中耕除草機が入れます。長さが15cm以上の成苗ですので、早い時期に深水にして抑草することも期待できます。このような方法により、有機栽培している例が全国に広まっています。(普通の田植機は、苗が密植のため根が絡み合った板状になったところから4、5本を掻き取り植えていきますので、移植後数日は生育がストップします。)

 

 残念ながらわが家の米作りは、まだ慣行農法です。そんな中でもできるだけ丈夫な苗、稲を育てたいと、育苗箱一箱に播く籾の量を少なくし、育苗中に苗箱を水中に浸すプール育苗という方法を採用しています。また、田植えも株と株の間を広くとった粗植にしています。

 プール育苗とは、発芽後、箱上1cmの湛水状態を続けることで、水の力で根を守り、地上部を寒さで鍛えようというものです。これにより少なくとも育苗中は病気に強くなり、潅水作業も軽減されます。

 

 これ以外にも、すぐに環境保全米づくりに取り組めるかというと、稚苗仕様の田植機を使っていることがネックになります。たとえばポット苗にしようとすると、専用の田植機が必要です。これまでの育苗箱も使えません。箱数も倍になります。深水管理するにしても、畔の高さを30cmぐらいにしたいのですが、そのためには畔塗機がないと困難です。その畔塗機を動かすためには、30馬力以上の中型のトラクターがないと……。機械体系を再構築していかねばならず、すべてお金が関わってきます。

 規模も小さいのに今さら投資をしてもという考えと、「安全な米」でないとこれからは受け入れられないという考えの間で、頭を痛めているこの頃です。

(直播き稲作については次号で)