市民と農業者の融合(のらやま通信 NO.78 2001年6月号)

市民と農業者の融合

 もう何年も前から都市近郊での農地が遊休化していることが指摘されていますが、一方で、ガーデニングブームや環境志向の高まりによって、農業や農作業に興味を持つ消費者・都市住民の方々も多く見られます。『手賀沼トラスト』というわが家の関わっている市民グループはそういった農地と消費者・都市住民を結び付ける仕組みづくりを模索しているのですが、農地法等の制約から消費者・都市住民が本格的に農業に取り組むには法人化しかないと考えていました。

 そんな折、『消費者が法人の経営に参加 休耕地耕し生産・直売』という農業新聞の見出しが目についたので、仲間達と現地に行ってみました。

 全国農業新聞2000/11/17で紹介されていたのは農業生産法人有限会社「青空農園」(神奈川県相模原市)で、昨年10月に発足。構成員23名のうち17名が消費者で、定年後の生きがいの場と考えて参加した人が多いといいます。

 

 そもそもの発端は10年前に農民グループと市民、消費者グループが出会い、『親と子の青空教室』という2haの田んぼでの体験教室を始めました。1家族当り10、000円の参加費を徴集し、収穫高の1/3を経費に、残りの2/3を作業割合に応じて参加者に分配してきました。減反対象外の酒米を作り、地元の酒屋グループがオリジナルブランドの酒をつくるという話も進んでいるそうです。

 このような10年間の経験を経て、市民がイベント的に農業に参加して楽しむだけでなく社会的にも認知されたい、農地流動化の受け皿となって市民が都市農業の担い手になりたいという気運が高まり、自然と「法人化」することになりました。

 

農業生産法人の構成員要件としては、

①法人に農地等を提供した個人

②常時従事者

③農協または農地保有合理化法人

④法人から生産物の供給または労働の提供をうけるもの

の4つがあります。

 

 一般市民が法人構成員として認められるためには④が適用されます。そこで、消費者構成員は「法人が生産した野菜を年間50~60kg、5年間買います」という「継続的農産物取り引き契約書」を取り交わしています。

 法人化した際に農家構成員の権利を優先するために、消費者の出資制限もあります。一般市民構成員の議決権は個人で1/10、全体で1/4が上限となっており、青空農園の17名の消費者構成員は一律50,000円を出資しています。

 

 また、構成員要件にある常時従事者とは通常、年間150日以上、法人事業に従事したものとなっていますが、多人数で法人化した場合には年間60日以上従事することで常時従事者と判定されることがあります。その場合には、週末だけの参加で常時従事者として認定されることになります。常時従事者に認定されると農業委員会選挙人名簿に登録され、農地の売買貸借が可能になります。

 農地法によって消費者.都市住民が農地を売買貸借することは規制されていますが、農業法人の構成員になることによってそれが可能になることが法人化の検討の途中でわかったと、予想外の展開に青空農園のメンバー自身が驚いていました。

 

 有限会社「青空農園」の事業は、当面、・有機野菜の生産、販売と・農業教室の運営およびサポーター養成の二つ。

 

 法人化の際の最低経営面積制限が50aであることから、55aに利用権を設定して発足、社長個人の所有地110aと合わせて計165aで有機野菜を生産しています。農作業は社長夫妻二人と消費者のサポートで行い、近くの直売所で農産物を販売します。消費者構成員の奥さんが自宅の駐車スペース等を利用して定期的に庭先販売する「直売所ブランチ」というゲリラ的販売方法も試みられています。

 法人化にあたっての消費者の役割は出資、生産物の購入、農作業のサポートにより法人を支えます。一方で、出資者、教室参加者の区別なく参加できる運営委員会によって法人を運営することを基本方針にしています。また、法人の解散時も想定して、土地も機械も法人の財産は持たないとしています。

 

今後の課題としては

・規模拡大

・サポート体制の確立

有機認証の申請

市民農園の運営

の4点を上げています。

 規模拡大については、発足時の評判を聞いて、市内各地から遊休農地を利用してもらえないかという申し出が数多くあるそうです。事業面積が今年中には3haになるかもしれないとのことでした。従事者の方も「働かせてくれ」「働きたい」という声が集まっているそうです。サポート体制の確立も急がねばならない課題となっています。

 

 地域にあるものを結び付ける仕組みによって人、物、金の地域内循環を可能にする先進事例として、農業生産法人有限会社「青空農園」をみてきました。